感染症の歴史は、人類の歴史に深く根差しています。特にパンデミックは、社会や文化、政治、そして個々人の生活に多大な影響を与えてきました。
今回紹介する『感染症の歴史学』は、まさにそのテーマを探求した一冊で、新型コロナウイルスをはじめ、天然痘、ペスト、マラリアといった歴史的に重要な感染症について深く掘り下げています。
現代史としての新型コロナ
この本の構成で特に印象的なのは、あえて現在進行形の新型コロナウイルスを冒頭に置いた点です。一般的には、感染症の歴史を古い順に並べがちですが、著者は新型コロナを「歴史」として検討することに強い意義を見出しています。
このパンデミックが与えた影響を、記録が豊富にあるうちに整理し、将来再び起こりうる感染症に備えることが重要だと訴えています。全体の4割近くを新型コロナに割いている点からも、その緊急性と重要性が伺えます。
歴史を動かす感染症
本書では、天然痘やペスト、マラリアの流行を通じて、人類がいかに感染症と戦い、社会がどう変化してきたかを辿っています。
特に興味深いのは、こうした感染症が人々の生活を大きく変えただけでなく、植民地支配や差別の正当化に利用された暗い側面も取り上げられている点です。感染症は単なる医学的な問題ではなく、歴史や社会構造、政治とも密接に関わっていることが強調されています。
忘却されゆく新型コロナの記憶
新型コロナに関しては、既に記憶や記録が失われつつあるという著者の危機感が強く伝わってきます。パンデミックの初期にはSNSなどで様々な情報が拡散され、誤情報も含めて社会に混乱をもたらしましたが、それらの情報もまた、後世に残すべき「歴史」の一部であると指摘されています。
感染症の歴史化とは、人々の生活や選択、社会の対応を後世に伝えるための重要な作業です。
終わりなきパンデミックとの戦い
マラリアやペストといった過去の感染症も現在進行形で流行が続いており、特効薬やワクチンが開発されたからといって油断はできません。
新型コロナウイルスも一段落したとはいえ、再流行の可能性があり、感染症との戦いは今後も続くでしょう。著者は、これらの歴史を通して、現代社会がどうパンデミックと向き合い、次なる感染症に備えるべきかを問いかけています。
この本を読んで改めて感じるのは、感染症がもたらす影響の大きさと、それにどう対応するかが歴史を動かしてきたという事実です。
感染症に対する正確な知識と理解を深め、未来に向けた備えをしていくことの大切さを痛感させられる一冊です。
感染症の歴史を振り返りながら、今後のポスト・コロナ社会について考える一助として、ぜひ手に取ってみてください。