「暴力とポピュリズムのアメリカ史―ミリシアがもたらす分断」は、アメリカの歴史や政治文化に深く根ざした「ミリシア(民兵)」の役割に焦点を当てた、非常に興味深い書籍です。
本書では、2021年の米国連邦議会襲撃事件を一つの象徴的な出来事として、アメリカの暴力文化やポピュリズムがどのように形成されてきたのかを、憲法修正第二条とミリシアの歴史を通じて描き出しています。
特に印象的だったのは、ミリシアが単なる武装集団ではなく、人民主権とポピュリズムの象徴として機能してきた点です。独立戦争や南北戦争を経て、民間武装組織が共和主義の一部として組み込まれていく過程は、アメリカがいかに「自らの武器で自由を守る」という理念に基づいて建国されたのかを理解させてくれます。
その結果、今日のアメリカ社会では、銃規制をめぐる議論が常に「個人の自由」や「政府の圧政」に対する抵抗権という歴史的文脈の中で語られるのだということが、この本を通じて納得できました。
また、日本とアメリカの対比も興味深いです。日本では暴力の独占は国家にあり、警察や自衛隊以外の武装組織の存在は考えられません。
しかし、アメリカでは民間人が武装し、自らを守るという思想が、建国の原点から存在しているという事実には驚かされます。この「武装ポピュリズム」が、今日のアメリカにおける分断や混迷の要因の一つであることが、議会襲撃事件を通じて浮き彫りにされています。
本書は、歴史だけでなく、現在のアメリカの社会や政治の深層にある問題を理解するための重要な一冊です。ミリシアという視点からアメリカ史をたどることで、国家の暴力独占が存在しない国の特殊性や、その裏に潜むポピュリズムの力学を改めて考えさせられました。
この本を読むことで、アメリカの過去と現在がどのように繋がり、今後どのように発展していくのかを深く考察できる、非常に示唆に富んだ読書体験を得ることができました。